高村薫の孤独感

気分は体調によって大きく変化するのだが、それにしてもひどい孤独感ってあるもんだと思った。

ところが・・・

「何にも縛られないといえば聞こえはよいが、拠下(ほうげ)すべき諸縁に薄く、従って拠下したという実感にも乏しい私に孤独という言葉は当たりません。私のこの背中から、尻の下から、足から噴き出してくる熱はただ、何かが足らない、身をくるむものが足りない、腹を満たすものが足りないという餓鬼の咆哮に近いものでありましょう。いましがた貴方が仰った生死の無常よりずっと以前の、如何ともしがたいこの身体の声だという以外に、いまは言葉が見つかりません。ああしかし、ほら―――いま風向きが西から北へ変わりましたよ。聴こえましたか?どんなふうな私であれ、あの風や雪が文句を言うわけでなし。・・・・」
日経新聞連載「新リア王」(373回 04.3.18)高村薫