読書

入院したのを機に、以前読みはじめてすぐ挫折した高村薫の小説を読んだ。


「晴子情歌」は、晴子の父母世代の明治の東京から青森に移り住んだ昭和にかけてを、晴子の旧字体の手紙によって語る。
情歌といいながら、晴子は、感情を表現することなく、運命を嘆くことなく、見て来たままを淡々と息子に宛てて書き送る。
明治から大正にかけての東京。都会の熱、「市民生活」とはかけ離れた、青森の土着の生活。
少しの災禍で成り立たなくなる生活の貧しさ。
青森が都会に追い付こうとすれば、公共工事による利益誘導政治にならざるを得ず…。
青森に限らず、地方に原発が誘致され、お金と引き替えに、漁業や農業など、自立した経済生活を放棄してきた地方政治の歴史が淡々語られる。


ということで、政治編の「新リア王」に続く。
さらにそれが、宗教編の「太陽を曳く馬」に続く。


「晴子情歌」は日本の近現代史庶民編で、長い映画を見ているようだった。
時に哀しく、しかし強く美しく。


後の2冊は…。高村薫が自分の納得のために書いたような感があった。
高村薫は、土着政治家の実存、宗教の実存、ポストモダンの現在をどうにか理解したかったのだと思う。さて?